「食の都・大阪」のブランド化

「大阪食彩ブランドプロジェクトチーム報告書」(平成20年3月)より

I.大阪の食のブランド化に取り組む意義

①食の都としてのブランド構築の高いポテンシャル

 近年、国内外において食に対する関心が高まりつつある。日本国内においては、各地において食材から料理まで幅広い食を活用した地域ブランド構築の動きが活発化している。また、食への関心の高まりは、食の安全・安心や食育への関心の高まりの中にもみてとれる。
 海外においては、日本料理店が数多く展開されるなど、日本食への関心が国際的に高まりつつある。同時に生産、食材、調理はもちろん、嗜好と栄養、食事行動、食べる道具と場など、幅広い日本の食文化についても高く評価されている。
 こうした食に対する関心の高まりは、食の都として古くより栄えてきた大阪にとっては大きなチャンスになると考えられる。大阪は食ブランドを構築していく上で、他の都市にはない次のような優位性を持っている。

a)食の都としての高い知名度

 江戸時代、陸海交通の要衝であった大阪は、諸国の貢租米、特産物などの集散によって経済的に中心地となり、「天下の賄い所」、「天下の台所」とも呼ばれた。全国の新鮮な食材が集まり、商業活動の隆盛は食文化にも大きな影響を与えた。その他、大阪で生まれた料理、食品、サービスなどは多く、「天下の台所」以来、大阪は食の発信地として日本の食の発展に大きく貢献してきた。 また近年になっても「食い倒れの街」と言われるように、食の都市としての知名度は高い。また、国内からの宿泊者で大阪の魅力として挙げる項目としても、「食べ物」がトップとなっている。 このように古くから大阪が有している食の都としての知名度は、食ブランドを構築する上で大きな優位性となるといえる。

b)他の都市には見られない裾野の広い食資源

 現在、各地において取り組まれている食による地域ブランド確立の動きをみると、特定の食材や商品開発によるものが多いが、大阪の場合、外食の名店から、昆布屋などの加工食品店、堺刃物などの道具産業、千日前道具屋筋商店街や黒門市場などの食材や道具の市場まで、長い歴史の中で培われてきた多様な食資源が存在する。これらの食資源をつなぎブランド化することで、他の地域には真似のできない多様かつ重層的な食ブランドを確立することができると考えられる。

c)多様な食文化の存在

 ブランド化を図る上で、発信していくコンテンツは非常に重要である。大阪には前述したように長い歴史の中で育まれてきた多様な食資源が存在するとともに、それらから生まれてきた食文化が存在する。例えば、すべての日本料理の基本となっている「合わせだし」の文化は大阪が発祥であり、、コミュニケーションと合理性を追求した「カウンター文化」は大阪が育んできたものである。このように食資源から食文化まで、大阪には食に関する多彩なコンテンツが存在し、多様なアプローチから食ブランドを確立することが可能である。

【大阪発祥の食(例)】

  1. ○塩昆布
  2. ○まむし
  3. ○粟おこし
  4. ○大阪寿司
  5. ○バッテラ
  6. ○栄養菓子グリコ
  7. ○オムライス
  8. ○ホルモン料理
  9. ○うどんすき
  10. ○マロニー
  11. ○インスタントラーメン
  12. ○カップ入り即席麺
  13. ○粉末即席カレー
  14. ○レトルトカレー
  15. ○赤玉ポートワイン
  16. ○サントリーウィスキー白札
  17. ○きつねうどん
  18. ○回転寿司

②高い経済波及効果

 大阪府において、工業統計上の全製造業の製造品出荷額に占める食関連産業(食料品製造業、飲料・たばこ・飼料製造業)の割合は7.6%、商業統計上の年間商品販売額に占める食関連産業(飲食料品卸売業、飲食料品小売業)の占める割合は11.3%となっている。食関連産業は、このほか農林水産業、観光産業など多岐にわたり、食関連産業の振興は大阪経済の活性化にも大きくつながると考えられる。また食関連産業の競争力強化だけでなく、地域において一体的な取り組みを行うことにより、地域の活性化にも大きく寄与するものと考える。

主な食品関連産業

II.大阪の食ブランド強化へ向けた課題

1.食のイメージ創出に関する課題

①多様な食文化を有する都市としてのブランド化と世界への発信

 前述したとおり大阪は現在でも食の都市としての一定の地位を確立はしているが、食の中心地(特に消費地)が東京にシフトしていることや、東京がミシュランガイドで、世界で最も星つきレストランの多い都市となり、世界的な美食都市としてのブランドを確立する中、その地位は相対的には低下していると言わざるを得ない。
 また、近年の大阪の食のイメージは、メディアによる大阪の食の取り上げ方の影響もあり、一部の食に偏ったものになりつつある。
 大阪には、現在も多様な食文化、食に関する資源が存在する。日本の食を支えてきた地域として、現在、定着しつつあるイメージを払拭するようなブランドアイデンティティを再構築し日本のみならず世界に発信していくことが求められている。

②新たな食の創出と発信

 大阪は、「合わせだし」など、古くより新たな料理や食文化を生み出してきた。そして近代になっても、オムライスなどの伝統と新興を融合させた旨いものを生み出す一方で、チキンラーメンなどの時代のライフスタイルに合った食も生み出してきた。大阪の食の大きな特徴は1つのものに固執せず、常に新しい食の情報を発信し続けることにあったといえる。
 しかし、ここ最近については、かつてのような全国的に注目を浴びるような新たな食を生み出すことができているとは言いがたい。現在でも、大阪の味は確かにうまい。しかも安い。実利的・合理的という思想は、大阪の食文化のひとつの特徴であるが、大阪の食ブランドの確立のためには、この特徴を活かしながらも、食の洗練を追求し、新たな食を創出していく必要がある。

2.食を支える基盤に関する課題

①優れた料理人並びに食関連産業を支える人材の育成

 食ブランドを確立していくためには、優れた料理人の存在が不可欠である。時間をかけてでも優れた料理人が自然と育つ仕組みづくりが求められる。大阪は、調理専門学校などを中心に、全国で活躍する若手料理人を多く輩出している料理人輩出エリアである。この強みを活かし、大阪で働き開業する料理人を増やし、料理人同士が互いに切磋琢磨し、優れた料理人に成長していくような環境づくりを行う必要がある。あわせて食関連産業を支える経営者、経営幹部などの高度人材の育成も必要である。

②良質な食材の確保

 かつて大阪は、京への近接性や、陸・海の地理的優位性により、産品流通のハブ機能として全国の優良産品が集まっていた。しかし、近年、流通の東京一極集中の流れも影響し、大阪の食材集積力は低下しつつある。料理の命とも言える良質な食材が大阪で手に入らなくなることは、大阪の食の質の低下につながる可能性が高い。食材需要の高さは東京が圧倒的に高いため、大阪が食材集積力で勝ることは現実的に難しいと考えられるが、良質な食材の確保のために対策を講じる必要がある。

③食関連産業の振興

 幅広い食関連産業が存在することが大阪の食文化のひとつの特徴といえるが、近年、一般飲食店や飲食料品卸売業・小売業、食料品製造業などは、総じて事業所数・従業者数とも減少している。大阪の食文化がその多様性を保持し続けるためには、多様な食関連産業の存在が欠かせない。大阪が多様な食文化を持つ都市としてブランド化を図るために、食関連産業のトータルな強化が必要である。

④食の安全・安心の確保

 近年、賞味期限の改ざん、産地偽装、食品偽装等、食に関わる事業者のモラルが問われる問題が多発している。食は人の健康や命を維持・増進するために不可欠なものであり、食の都としてのブランドを築いていく大阪としては、必要最低限の取り組みとして食の安全・安心の確保に努める必要がある。

⑤味の分かる消費者の育成

 大阪の食文化は、かつての旦那衆がそうであったように、食を楽しみかつ厳しい批評をやめない消費者の存在により育まれてきた。しかし、近年の食生活の変化により、全国的な傾向と同様、大阪においても、子どもをはじめ大人の味が分かる能力が低下している。消費者の味に対する能力の低下は、大阪の食の質の低下につながる恐れがある。大阪の食文化育成のためには、料理人のみならず、味の分かる消費者の育成も必要となる。

III.大阪の食がめざす姿

大阪の食ブランド強化に向けての課題を受け、大阪の食が目指す将来像とそのストーリーを以下のように描く。

大阪の食が目指す姿

①大阪で新たな食や食文化が生まれている

  • 安全・安心、健康、環境に優しいといった時代の要請に確実に応え、さらに次代の新しい食が大阪に芽生え、生まれ育っている。
  • 心温まるおもてなし、料理人と客の真剣勝負、相互の信頼関係、嗜みやスタイルなど、幅広い食文化が大阪に芽生え、生まれ育っている。

②大阪が食に関する人材の育成、供給、チャレンジの中心地となる

  • 大阪が世界有数の料理人育成の中心地となり、これからの食を担っていく才能豊かな新たな人材を多数輩出している。
  • 独立開業に向けた支援策が充実しており、大阪が料理人のチャレンジの場として各方面から注目されているとともに、大阪で腕をふるうことがステイタスとして認知されている。
  • 将来の食分野の発展を支える経営者、経営幹部などの高度人材を育成する食の総合教育・研究機関が大阪にあり、人材を多数輩出している

③大阪が食に関する物的および知的資源の集積地となる

  • 大阪の自然・風土の恩恵を受けた良質で多彩な食材が安定的に生産され、流通している。また、世界・日本の優れた食材が大阪に集まっている。
  • 料理道具や調理機器などの食関連企業が、蓄積された伝統的な技を活かして優れた製品を生み出したり、料理人との連携や集積のメリットを活かした企業間連携によって革新的な製品を生み出している。
  • 食に関わる技術的および文化的情報が集積され、食の分野を中心として多方面でR&Dが促進されている。

④食や食文化が大阪の魅力を高め、街の賑わいを創出している

  • 大阪の食文化の向上が、地域としての大阪の魅力をさらに高め、大阪の食および食文化を体感することが、大阪を訪れる人の大きな目的となっている。
  • 結果として、大阪の流入人口が増加し、外食産業が振興されるとともに、関連産業(観光業、文化産業や物販業など)にもその効果が波及し、街の賑わいが創出されている。

⑤大阪の食や食文化が国内外に認知される

  • 大阪の食および食文化の魅力が、日本のみならず世界へも広く知れ渡り、それを体験するために日本全国、世界から多くの人が訪れている。
  • 大阪の生み出す食や食文化が、大阪のみならず日本および世界の食や食文化に影響を与えている。
このページのトップへ